永遠の昨日永遠の昨日
榎田 尤利 紺野 キタ

白泉社 2010-11
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ボーイズラブ・レビュー


長らく絶版になっていた榎田 尤利さんの初期作品です。
これ、リアルタイムで読んでたんですよねー。
もう8年にもなるのかと、ちょっと遠い目になりました。

けっこう衝撃を受けて、ずーっと本棚にあったので、とっくに感想書いてるわと思いこんでいたら、実は書いておりませんでした。
相変わらず抜けまくってます。
そんなこんなで新装版で再読。

ご本人は後書きでつたないっておっしゃってますけどそっかなー。
個人的な感想ですが、この作家さんの場合デビュー作の時からあんまり初々しさは感じなかったので、あんまりそうは思えないんですけど。

なんにせよ、ここ最近あまり見ない作風の貴重なボーイズラブです。
切なくてほんのりあったかい、正しく純愛なBLなのです。


以下ネタバレ妄想注意!


紹介文です。


いつもと同じ朝、同じ一日…のはずだった。雪の積もる道を学校へと向かう満と浩一のもとに、一台のトラックが突っ込んできた!不条理な日常に翻弄されながらも、かけがえのない想いを確かめあうふたりだったが…。大人気榎田尤利の新境地、衝撃の学園ラブストーリー。

ミッちゃん、だいすきだ。ずっとそばにいるよ。いつまでもずっと。
切なくて、哀しくて、やがて溢れる優しい愛。榎田尤利の幻の傑作がいま蘇る。


なんというかボーイズラブって基本、死ネタってタブーなんですよ。
ジュネ時代はけっこう、悲恋系もいっぱいあったのですが、ジャンル名がBLで固定されだしたあたりから「明るく楽しい」が枕詞になっていった感がありまして、バッドエンドが忌避されるという風潮が生まれたのです。
なにしろ、新人賞の募集要項にも「明るく楽しいボーイズラブ」って明記するところがあるくらいです。
なので、ハッピーエンドBLに比べたらバッドエンドとか死ネタを扱ったBL作品というのは極端に少ないです。

で。
前置きが長いのは何でかというとですね。
この作品は思いっきり死ネタを扱ってます。
なにしろ冒頭から死んでます、攻が
なんと初っぱなで攻がトラックに跳ねとばされて心臓止まってしまうのです!!

掟破りも甚だしい展開です。

しかし、掟破りなのは展開だけじゃなくて、キャラも色々と自然界の法則を無視してます。
もうガン無視です。

トラックに跳ねられた攻ですが、冒頭から人間止めてます。
大腿の動脈切れて出血多量で頭蓋骨陥没、そんでたぶん頸椎損傷で骨折も肋骨をはじめあちこちポキポキで、なのに痛みもなく意識を保ったまま起きあがってきたんですからこれもうゾンビですよね!

変な方向向いてる首をゴキっと直し、足を直し、陥没した頭はバンダナで隠し、裂けた太腿は裁縫セットで縫合。
心臓止まってて脈も血の気もないけど、なんか意識残ってて普通に動けるから、クラスメイトのみんな、これからも仲良くしてね!って説得して普通に毎日通学します。

……ホラー小説じゃないからね!!
純愛BLだから!!



浩一は満が好きでした。
満も浩一が好きでした。
お互い離れたくなかったし、特に満は浩一が死んだなんていう現実を受け入れたくなかったのです。
その現実逃避気味の思考と相手を思う気持ちだけで、1人の人間をこの世に繋ぎ止めたのです。
エネルギー摂取をしないのに動ける、死んでるのに腐らない、意識を保ってまともに思考、会話が出来る。
明らかに異常です。

でも満はその異常な現実にしがみつきました。
それはもう必死で。
それでも、どんなにファンタジーな展開でも現実世界に即してストーリーが進む以上、そのままで済むはずがありません。

浩一はどんどん、この世から消えていきます。
関わりの少なかった人から、浩一が見えなくなっていきます。
認識できないので無視する形になります。
プリントが配られない、挨拶が返ってこない。
特に満が側にいないときはほとんどの人が浩一を見ることが出来ません。

この世で希薄になっていく大好きな相手を見ているしかない満。
ずっとこのままが良いと望んでも、そうはならないと悟ってしまうだけの正気はもちろん残っています。
辛いよなあ、いっそ狂えたら楽だったかもしれないのに。

そしてひき逃げした男と再会してその妻と生まれた子供を見たり、なんかこう輪廻のようなことを考えて、人間死んだら何もかも忘れて森羅万象に還るんだ、そうなるものなんだって納得してしまいます。
浩一を引き留めたらそれだけ、自然の法則に反して留まっている彼を苦しませることになる。

だからもう、逝ってもいいよ。
でもそのかわり、最後に気持ちも身体も俺にちょうだい。


そして今生最初で最後、身体を重ねて。
明け方まで抱き合って、浩一はそれから自分の家に帰って、自分の布団の中で逝きました。

恋人だけじゃない、家族だって浩一には大切だった。
こう、大事なものをすべて置いて逝かなきゃいけないって、たぶん浩一はゾンビしながらひしひしと感じていたのだろうなあと思うと、とても切ないです。
覚悟の時間が長いって、けっこうしんどいと思うのですよね。

浩一の死を受け入れた満も、緩やかに死んでいく恋人の傍らで抱く葛藤って大変なものがあったことでしょう。

彼らがまだ高校生かと思うと、何ともやりきれない。
もう子供じゃないけど大人にもなりきれない時期に、恋人が手の届かないところに行ってしまうというのはきっと本当に辛いはず。
それなのに、非日常のなかで現実を受け止めて受け入れていけるこの子達はなんて強いんだろう。


ファンタジーな展開のくせに、大原則たる「死」は厳然と描写したこの作品のラストはとても厳しい。
厳しいけど、だからこそ響いてきたこともあるんだろうなと思います。

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