雪よ林檎の香のごとく (新書館ディアプラス文庫)雪よ林檎の香のごとく (新書館ディアプラス文庫)
一穂 ミチ 竹美家 らら

新書館 2008-07-10
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ボーイズラブ・レビュー


久々の感想更新。
久々の学園モノ。

そして、久々に胸にドンときた作品でした。
これは良い!

まずタイトルが素敵です。
タイトル買いでしたし。
雪よ林檎の香のごとく。
冷たすぎず温かすぎず、表紙の雰囲気と相まって、ふわっとしつつもどこか凛としたところを感じさせる、絶妙なバランス感覚といいましょうか。
この本の表紙にオビはいらないわーと思ってさっさと取ってしおりにしてしまいました。

以下ネタバレ妄想注意!

紹介文です。

中学受験も高校受験も失敗し、父の母校に進学する約束を果たせなかった志緒。今は、来年編入試験を受けるため、じりじりする気持ちを抱えながら勉強漬けの毎日を過ごしている。五月雨の降るある日、志緒は早朝の図書室で、いつも飄々としている担任・桂の涙を見てしまった。あまりにも透明な涙は、志緒の心にさざなみを立て—。静かに降り積もるスノーホワイト・ロマンス。期待の新鋭・一穂ミチのデビュー文庫。

多感なお年頃のカオスな感情がぐるぐる渦巻いてます。
1人の教師の涙を見たことで、そのカオスな感情がゆっくりひとつの流れをつくって動き始めます。
「気になる」と「好き」の境界なんて、本当にいつも曖昧で、でもどこかで確実に変化して、ふとした時に自覚するもの。
この作品の「自覚」の瞬間は、それはそれは唐突でした。
結構すごい状況で、しかも自覚=告白という葛藤も何もあったもんじゃない、無鉄砲で考えなしで、でもそのぶん勢いがあって、なんだろう「これぞ青春!」みたいな……。

幼馴染みの女の子がその教師に告白したら非道い言葉で振られ、それにプッツンきた志緒が、あやまれ!とその教師・桂の自宅に怒鳴り込み、怒鳴っているうちに気付いてしまったんですね。

「俺、あんたが好きなんだ」

脈絡も計算もあったもんじゃない。
それだけにストレートで自分の心に正直な言葉だったんだろうなぁ。
まぁ、怒鳴り込んできた生徒がいきなり同性の自分に「I love you」と言いだして、桂もさぞびっくりだったと思いますが。

志緒は、女の子のように「好き」の向こうにあるあたりまえの展開を、少なくとも初めは一切期待していなくて――というより諦めていて、でも好きになった心は消せないよとさらっと本人に言える、素直で強い子でした。
生まれたばっかりの妹に、

「お兄ちゃんだよー。同じ男に2度も振られたお兄ちゃんですよー」

と呟いちゃったりするおちゃめさんだったりもします。
いやいや、それなんの英才教育ですか。
まだ一言も喋れない妹に、男が男に振られたって言うなー!!
つか、親御さんが聞いたら卒倒モノです、ごく普通の一般家庭なのに。


なんかこう、好きだ、おう、俺も! じゃあ一緒にベッドいこっか、という即物的な展開がじゃないのがすごく好きですハイ。
一緒にホテルに入っておきながら、しかもベッドで抱きついてゴロゴロしておきながら、

「高校卒業するまでしないよ」

と、ボーイズラブの攻にあるまじき自制心を発揮するところとか、なんかめちゃめちゃ好きです。


桂が抱えてるトラウマとか、ポンポンと小気味よい会話とか、重くなりすぎず軽くなりすぎず、良い感じの緊張感で最後まで引っ張ってくれる感じというんでしょうか。
もちろんキャラも好きですが、作品全体に流れてる空気が心地良くてすごき良いなーと思えたのでした。

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