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ボーイズラブ・レビュー
久和まりさんは、珍しくBL小説で賞を受賞してコバルト作家になった人です。
(私の印象ではコバルトってBL特集とか平気でやるのに、BL系の小説でデビューする作家さんがほとんどいないんですが……最近はいるんでしょうか。応募作にBLがそもそもないのかも知れませんが)
主従というか歴史モノですかねこれは。
しかもロシアです。貴族です王族です革命です。
かなり正史に沿った展開になっているそうです。
(伝聞形なのは私の世界史知識がほぼ白紙だからです……)
以下ネタバレ妄想注意!
紹介文です。
帝政ロシア末期。政治家を志す青年貴族フェリクスは、皇帝の従弟であるドミートリと五年ぶりに再会する。美しく成長していた彼に、許されぬ想いと知りながらも惹かれてゆくフェリクス。しかしドミートリも同じ気持ちを抱いていたのだった。お互いの感情に気付いたふたりは結ばれ、愛を交わす。ところがある日、ドミートリが姿を消した。再び出会ったとき、彼は別れを切り出した―。’98年度ロマン大賞受賞作。
コバルト文庫の懐の深さを思わせてくれる1冊でした。
たとえばこれは、ルビーやキャラやラピスでは絶対に出してもらえない作風です。
コバルトBLをまとめ読む中で、なんて節操がないんだろう、コバルトBLの目指す方向が見えない、わざわざコバルトでBLやる必要なんかないんじゃないか。
とぐるぐる考えていたのですが、実はこの節操のなさがコバルト文庫のカラーなのかなぁという気がしてきました。
(それでも集英社さんには別にBL専用文庫を立ち上げて欲しい気がしますが)
設定は萌要素満載のハズなのにこの萌なさ加減は尋常ではありません。
全体的にまず文章がストイックです。
攻の貴族青年の一人称で話が進んでいくのですが、なんというか外国小説の翻訳のような感じなのです。淡々と話が進んでいきます。貴族だから感情を表にださないように躾られていて、だから手記を書かせても抑えた調子になるのね……という何とも言えないリアリティが魅力だと思います。臨場感がないことが逆にリアリティを生んでいるというか。
かなり好きです、これ。
ストーリー自体は単純で、身分のある二人の男の禁断の恋、お互い相手を思って別れるが最後まで相手のことを愛している、攻男は別れた男を忘れるために結婚→式を挙げた当日に早速後悔……と。
イリーナ(攻と結婚した女性)可哀想ですよ。
お気に入りキャラは彼らカップルの友人のミハイルですが、彼は数少ないオリジナルキャラだそうです。サクッと死んでしまって衝撃でした。ブルータスおまえもか。……この作者もオリジナルキャラには何しても良いと思ってる人なんでしょうか凹。
そしてなにより特筆すべきはエロ描写です。
うん、萌えない。
むしろ爆笑。
こんな場面で冷静に考えなくて良いのよ攻青年……。
私はドミートリをうつぶせにする決意をした。彼は私の動作に従順に応じた。しかし私は彼の美しい臀部を見つめて逡巡した。本当に、そんなことが可能なのだろうか?ドミートリが壊れてしまうかもしれない……。しばし間があった。
中略
最初の一撃にドミートリは苦しげな呻き声を上げ、両手で羽枕をきつく握りしめた。私自身も鋭い痛みが走った。とても不可能だ。こんな狭い箇所から彼に入るなんて、絶対に無理だ。私も彼も傷ついて、出血するのは明らかだった。しかし、ああ! 私自身はますます彼を求めていた。
……最中でも冷静です。
というかね。男を裏返して、その体勢で迷わないでお願い!
きっとものすごく間抜けですから!
そして、最初の一撃って!!!
そりゃ、一撃には違いないが!(相手は初めてなわけですし!)
でも腹痛ぇ!
しかも行為の後の攻の視点。
臀部に赤黒い血痕が点々と残っていた。
私は感慨深くその尊い印を見つめた。
……。尊いのかよ。
愛しいとかなら理解の範疇ですが尊いって。
エロシーンでこれだけ笑ったボーイズラブは初めてかも知れません。
でもちなみにストーリー自体はシリアスで最後は悲劇です。
ギャグではありません念のため。
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アキミ