専属契約 橘 紅緒 北畠 あけ乃 大洋図書 2005-11-04 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ボーイズラブ・レビュー
デビュー作とまとめて読んだのですが、この作家さん好きです。
文章が透明な印象です。
全体を通して、澄んだ湖面みたいに静かな雰囲気があります。
ボーイズラブ小説には少ない静謐さを持っていると言いますか。
2冊読んだ時点で、さてこの作家さんはコンプリートしますよ、という気分になってます。
これから変わる可能性が高い作家さんだな、という感想でした。
以下ネタバレ妄想注意!
紹介文です。
「こんな僕に、誰かを好きになる権利はあるのかな」
常磐彗、16歳。性別、男。ある朝、女優であり母である各務子夜子に呼び出され、少女のふりをしてCMモデルを引き受けることになる。本当は引き受けるつもりはなかった。けれど、傲慢なカメラマン・静竜之介との出会いが彗の闘争心に火を付けた。才能溢れる静に惹かれる彗。静は少年である彗を抱き、モデルの「彗」が実は男であるという秘密を守ることを条件に彗と専属契約を結ぶ。自分以外に写真を撮らせるな!と。恋を知り成長していく彗。それは別れが近くなることも意味していた・・・!?
年上攻の年の差カップルですよ!!!
犯罪……。
つーか、ショタ……?
うおおおおぉっ!
と下品に興奮していたわけですが、あんまり年の差カップルという感じはしなかったです。彗が16歳らしくなかったというのが一番の原因かなーと思います。高校1年生なのに何でこんなに冷めた子なんだろうと。理由は色々あるみたいでそれなりに描写もあったんですが、それにしてもなぁと。こんな高校生あんまりいないぞと。
もうちょっと背伸びしたりとか突っ張ったりとか、あとは何だろう、脱力してたりとか、育ってきた自我をもてあまし気味で悩んでたりとか、もっと生々しい感情が渦巻いてる年頃だと思うのです。
でも彗はそういう感情を少し離れた部分から客観視しているような感じがしました。
もっともっと、現実に生きている人間だというちょっとした感情の揺れや行動の描写があるといいかなと思いました。
そして。
注目すべきは、攻のカメラマン静竜之介です。
普通、ミステリアスな少女が事務所から差し出されておいしくいただこうとしてそれが男だったら、とりあえず箸を置くだろ!? なにそのまま事務所にクレームも入れずに頂いちゃってるんですか。
しかもですよ。
女装した少年に、バラされたくなかったら俺と専属契約を結べ、抱かれても文句言うな、と脅迫しています。さらに気付けば同居に持ち込み、あげく、脅迫していたことをうっかり失念して「付き合っている」と思っていたというかなりの天然さん。
ちょっと待っておじさん!
どちらかというと彗より彼の方が余裕がないのでは?
一回りも年下の少年に振り回されております。
しかも。
他のカメラマンに彗が撮影されそうになると、他の奴に取らせるくらいならモデル引退しろと迫り、本当に引退させてしまいます。
ものすごい独占欲です。
これは俺のものだからもう誰にも見せてあげない!
……っておまえそれ、小学生かよ!
彗視点で話が進むので、ぱっと見、静はものすごく世慣れているやり手の大人というようなイメージが強いのですが、よくよく読んでみるとけっこう我が儘で、すごいことを平気で言ったりやったりしております。
1冊できれいに完結している作品です。
是非、このカメラマンを皆様にも見て頂きたい。
この作家さん、もう一皮二皮剥けたらすごいんじゃないかなと思います。
澄んだ湖面みたいに静かな雰囲気の文章だと初めに書きましたが、彼女の湖にはまだ、魚とかやってくる鳥とか、周りに茂っている木とか草とかが足りないように見えるのです。
見た目はきれいな湖でも、本当はちょっと覗き込めば厳しい生存競争があって、雨が降れば水は泥で濁るし、色んなものを含んでいるはずなのです。
まだ、彼女の作品にはそれがない感じです。
でも、源になるきれいな水はあるので、化け具合によっては絶景が生まれる可能性があると、ものすごく期待しています。
この文章をベースにキャラ立ちした作品が仕上がってきたら震えます。
願わくば澄みすぎて何も住めないような湖になりませんように。
↓WEB拍手です↓
アキミ
橘さんてとても独特に美しい雰囲気の文章を書かれるのが魅力ですよね。
でも確かにアキミさんがおっしゃるように、キレイすぎてキャラが個人として生きてない、物語の内容じたいは動きがあるのに、文章としては静物画的というか、そんな感じです。
静の側からみると、また全然ちがった作品ですね。
彗に振り回されまくってる、余裕のナイ大人子供です。そこのところがもっと押し出されてくると、「一皮二皮むけた」状態になるんでしょうか。
今後が楽しみな作家さんです♪
TBさせていただきました。